- 今後の賃金動向についてもう少し情報が必要-利上げ見送りで総裁
- 総裁会見後に円売りが強まる、対ドルでは一時7月以来の157円台
日本銀行は19日の金融政策決定会合で、現行政策の維持を賛成多数で決めた。植田和男総裁の記者会見でのハト派的な発言を受けて、市場では早期の追加利上げ観測が後退し、円安が加速している。
会合では、無担保コール翌日物を0.25%程度に誘導する金融市場調節方針を据え置くことを賛成多数で決定した。政策金利の維持は9月と10月に続いて3会合連続。
記者会見する日銀の植田和男総裁
植田総裁は会見で、利上げを見送った理由の一つとして、賃金と物価の好循環の強まりの確認には来年の春闘に向けたモメンタムなど「今後の賃金の動向についてもう少し情報が必要」と指摘。米国はじめ海外経済の先行きは引き続き不透明とし、「米国の次期政権の経済政策を巡る不確実性が大きく、その影響を見極めて必要もある」とも述べた。
今回会合後に円安が進行したこともあり、植田総裁が来年1月の会合に向けて利上げを示唆するのではないかとの見方が強まっていた。総裁は1月会合までに入ってくるデータが日銀の見通しの確度を高めるのに十分かは「現時点では何とも言えない」と述べるにとどめ、追加利上げのタイミングは予断を持たずに判断していく姿勢を強調。市場の思惑が外れた格好だ。
UBS証券の足立正道チーフエコノミストは、「植田総裁の記者会見を見て、1月に利上げできると思うのはなかなか難しいというのが素直な印象」で、かなりハト派だと思ったと指摘。「為替がさらに円安になるかどうかが注目ポイント」だと述べた。
追加利上げの見送りを受けて、円相場は1ドル=155円台まで円安が進行。植田総裁の会見後には円売り・ドル買いがさらに強まり、一時157円台と7月以来の水準まで円安が進んだ。
円安が加速 | 総裁会見後には一時157円台
総裁は「最近の経済・物価に関する各種の指標は、おおむね見通しに沿って推移している」との認識を示した。その上で、データがオントラック(想定通り)で数カ月推移していることを前提にすると「見通しが実現していく確度は多少なりとも上がっている」と指摘。時間の経過とともに、利上げのタイミングが近づいていることもにじませた。
田村氏は利上げ提案
田村直樹審議委員は今回会合で政策金利の維持に反対し、0.5%程度への引き上げを提案したが否決された。全員一致の決定にならなかったのは追加利上げを決めた7月会合以来で、政策維持への反対は昨年4月の植田体制発足以降では初めて。
田村委員は「経済・物価が見通しに沿って推移する中、物価上振れリスクが膨らんでいる」とし、利上げの議案を提出した。銀行界出身の田村氏は9人の政策委員の中で最もタカ派と位置付けられ、2026年度までの日銀の見通し期間の後半には1%程度まで利上げしておく必要性を9月の講演で主張していた。
みずほ証券の松尾勇佑シニアマーケットエコノミストは、今回の決定に違和感はないと語った。その上で、田村氏からの利上げ提案は「主流派の意見とは違うかもしれないが、ボードメンバー内で次の利上げが近づいているという見方に傾き始めていることを示唆している可能性がある」と指摘。「追加利上げは限りなく近い。恐らく1月会合」との見方を示した。ただ、状況次第では3月の可能性もあるとみる。
ブルームバーグのエコノミスト調査(5-10日実施)では、追加利上げ時期の予想は来年1月が52%、12月は44%だったが、その後の報道を受けて今月は見送りとの見方が市場に広がっていた。
日銀の声明文では、景気の現状について「一部に弱めの動きも見られるが、緩やかに回復している」との判断を維持。消費者物価の基調的上昇率については、見通し期間の後半に2%の物価安定目標とおおむね整合的な水準で推移するとの見方を据え置いた。
多角的レビュー
日銀は今回会合で、昨年4月の植田総裁の就任直後から分析を進めてきた金融政策の多角的レビューの結果を取りまとめて公表した。過去25年間の金融緩和策の効果と副作用を点検したレビューも活用し、物価目標の実現へ経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営していくとしている。
レビューでは、マイナス金利政策やイールドカーブコントロール(長短金利操作)、大規模な資産買い入れなどの非伝統的な金融政策について、経済・物価を押し上げる効果を発揮したと分析。一方で、定量的な効果は不確実だとし、「短期金利操作の完全な代替手段にはなりえず、可能な限りゼロ金利制約に直面しないような政策運営が望ましい」としている。